温かい心は成熟した人格のしるし

第四章 自戒するとき

人はだれしも自分自身のなかにあるいやなものを見つめたくはない。同時に、だれひとりとして自分のなかにいやなものをもたない人はいない。自戒するとは、自分のなかのいやなものと正面から向き合うことである。向き合うことによって、いやなものを捨てることが自戒ではない。自分にとっていやなものが果たしてきた意味を知ることであり、そこから新しく生きる自分を学び取ることが自戒である。そのとき、いやなものはただいやなものとしてあるのではなく、新しい自分をつくるためのエネルギーとしてあると受けとめることである。

旅人をもてなすことを忘れてはいけません。そうすることで、ある人たちは、気づかずに天使たちをもてなしました。(ヘブライの信徒への手紙13章2節)

【解 釈】成熟した人格のもち主の特徴のひとつに、温かい心がある。未成熟な人間は、人に対して敵意のある緊張関係をもち、他者に肯定的な感情をもつことができない。他者に対する肯定的感情とは温かさであり、言い換えるなら、人をもてなすことである。

聖書では、旅人をもてなすという言葉がよく使われる。聖書の時代では、旅人は、いつ敵に襲われるかも分からず、苦難の道中をたどる人であり、しかも見知らぬ人でもある。旅人をもてなすとは、そのような人をもてなすことを意味する。本来なら知らないふりをしてもいっこうに差し支えない行きずりの人でもある。

私たちの日常のなかには、「旅人」としての他者はいないであろうか。至るところに私と出会う「旅人」がいることに気づくのではないか。聖書は、その「旅人」に温かい心をもちなさいと言うのである。そうすることは、実は天使をもてなしていることになると言う。見知らぬ他者へのほんの少しの親切が天使へのもてなしになると思えば、喜びも倍加するにちがいない。それはおのずと人格の成熟を促す行為となる。

 

【こころ】イランの人は、「人を見たら泥棒と思え」という日本のことわざを聞いて驚いたそうです。彼らは「お客さまは神さまの友だちだ」と教えられると言います。日本はどちらかと言えば閉鎖社会の傾向をもっているので、仲間意識が強く、見知らぬ他人を避けることから、そのようなことわざが出てきたのでしょう。

しかし世のなかをよく見渡せば、見知らぬ他人、いわば「旅人」に親切にしなさいというサインが至るところに目につきます。電車に乗れば「お年寄りや体の不自由な方のために席をおゆずりください」とありますし、「他人の迷惑にならないように携帯電話はデッキでお願いします」とのアナウンスが流れてきます。「煙草は喫煙所で」「迷惑駐車をやめましょう」「大猫の糞の始末は飼い主の責任で」「赤ちゃんが寝ています。静粛に」などというのもあります。世のなかは、「旅人」に対して「もてなす」ことを求めています。「もてなし」には温かい心が必要です。温かい心は、成熟した人格のしるしと言われます。世のなかが「もてなし」を求めているということは、成熟した人格を求めていることにほかなりません。社会のなかでリーダーシップを取る人には特に求められる人格です。

賀来周一著『実用聖書名言録』(キリスト新聞社)より

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