「今、ここ」でしか人間は変われない


第三章 自らの勇気を奮い立たせるとき

勇気がもっとも必要とされるのは、生死を分ける危機に立たされたときである。 しかも勇気は生きるために用いられねばならない。生きるための勇気とは、私の存在を肯定することである。私の存在を肯定するとき、私は困難に耐え、苦痛を忍ぶことができる。その勇気がないなら、私は私の存在を否定しなければならない。それは私の死にほかならない。もし私が死を選択するなら、それはあきらめがそうさせるのであっても、勇気ではない。生きるためには勇気を必要とする。

 主を待ち望め、雄々しくあれ、心を強くせよ。主を待ち望め。(詩編27編14節)

【解 釈】
過去に希望を託す者はいない。希望とは常に未来のものである。しかし、未来は人間にとって常に閉ざされている。未来のために準備をどれほどしても、未来は不確かであり、不安であり、確かなことは分からない。にもかかわらず、希望は未来にしか託すことはできない。だから希望は、いつも不確かなものをうちに抱えている。

詩編の作者は、「待ち望め」と言う。未来は不確かなのに、「待ち望め」とはどういう意味であろう。それは、過去も現在も、ときはすべて神のものであるように、未来もまた神のものだからである。神は時間のなかに働いておいでになる。 時間は過去から未来へ空しく流れているのではない。ときの流れのなかには、見えない神の意志が働いている。それを信じようと言っているのである。その意志を未来に見る者は、未来に希望を託すことができる。それによって現在を「雄々しく、心を強く」生きることができる。

【こころ】
「過去と他人は変えられない」というのは、カウンセリングの世界でよく聞く言葉です。人はよく「夫がもっと家のことを考えてくれれば」「子どもがもう少し勉強に身を入れてくれれば」などと自分以外の他者が変わることを期待します。自分以外の他者は、たとえ身内であろうと簡単には変わってくれません。

ときには、起こったことをくよくよと嘆いて、「あのときもう少し早く病院に連れていけばよかったのに」とか、「こんなことになるのだったら、あのとき本人の言うことを聞いておけばよかった」と悔やむこともあるでしょう。しかし、起こったことは起こったことで変更は利きません。過去は変わらないのです。「過去と他人は変えられない」。 これはカウンセリングの原則です。

「今、ここで」が大切とカウンセリングの世界では言います。変化は「今、ここ」で 起こるからです。しかも「今、ここ」で変わることができるのは自分自身です。このときの自分とは「今、ここ」の現在にしっかり立ち、前を見つめている自分です。過去にとらわれている自分ではありませんし、他人を気にしている自分でもありません。自分で自分の問題を解決するために変わろうとする自分です。後ろを見ていません。他人を 気にしていません。ひたすら前を向いた自分がいます。これこそ待ち望む者の姿です。 「過去と他人は変えられない。変わることができるのは、今、ここの自分だけ」。ぜひ自分に言い聞かせたい原則です。