2 かけがえのない自分という存在
Q 私は、いつも失敗ばかりしていて、受験でも就職のことでも、そうなんです。どうして私ってダメ人間なんだろうと思ってしまいです。もっと自信を持って生きたいと思っています。自信ってどうやって身につくのでしょうか。
A 人はときどき自分がイヤになることがあります。とくに物事がうまくいかなくなったような時などに感じることが多いようです。人には自尊感情が大切と言われますが、自分を大切にする気持ちが薄らぐと自信をなくしたり、自分がみじめに感じられたりします。
あるときひとりの生物学者の研究室を訪ねたことがありました。その研究者がメダカの飼育槽を指さして、「見てください。みんな顔がちがうでしょう」と言うのです。それまで考えたこともありませんでした。メダカの顔はみんな同じだと思っていたからです。以後、わたしは動物でも魚でもひとつひとつに個体差があることにあらためて気がつくようになりました。猫や犬は分かるけれどまさか魚までと思われる方は、こんど魚の顔をよく見てください。不思議にどれもが個性をもって生きていることに驚きの念をもつはずです。私たちもそうです。ひとりひとりちがうのです。
こんなことをすることがあります。それぞれにふたり一組になって向き合ってもらいます。そして相手をよく見ます。最初は照れくさがっている人が大半です。でもその人たちに「さあ、お互いよく相手を見てください。私の言うことをよく聞いてください。これから私の言うことはまちがいなく真理であってだれも否定することができません。よろしいですか。さあ、よく相手を見てください。あなたの相手は世界中にたったひとりしかいません。お代わりのない存在です。もうひとつ、相手は明日はこの世にいないかもしれません。そう思って相手の方を今一度見てください」
そのとき相手はもはや行きずりの他人ではなく、それこそ愛おしく尊敬に値する存在に変わっているはずです。照れくさい思いは、その瞬間消えてなくなっているから不思議です。同時に相手も、私を見て「あなたは世界にひとり。明日はこの世にいないかもしれない」と思っているのです。
世界中でたったひとりしかいない存在、明日は生きていないかもしれない存在、それは相手であると同時に私自身のことでもあるのです。「私」という存在をよく見るとき、もはや何ものにも比べることのできないことがひしひしと感じられるのではないでしょうか。