バッハの作曲数

教会カンタータの歌詞も神学的に確認!

バッハは教会カンタータを生涯に5年分(約300曲)作曲したと「故人略歴」には書かれているが、残されているのは約200曲で、多くがライプツィヒ第1期に作曲されたのではないかと考えられている。前述したようにコラールによるものから、教会詩人のノイマイスターやフランクの「カンタータ詩集」によるものや作詞者不詳のものなどもあるが、中には自ら作詞したものもあったに違いない。

興味深いのは1525年4月22日から5月27日までの間に演奏された9曲のカンタータである。この詩は当時女流桂冠詩人として知られたクリスティアーネ・マリアーネ・フォン・ツィーグラーの詩集によるものだった。彼女の詩は聖書的、神学的というよりも、近代に向けての時代の風潮を反映したものだったから、バッハはこれら9編の詩のいずれにも、当時のルーテル教会の神学に応じた修正や加筆を施した。たとえば原詩には「神のことばは律法」とあれば、詩としては字余りになっても、「神のことばは律法と福音」と修正するという具合である(関心ある方は私の論文「ルター派正統主義のバッハ」、バッハ全集第三巻究所の特別講義で1学期にわたり、これら9編の原詩とバッハによる修正、加筆、その神学的背景についてかなり詳しく講義したこともあった。カンタータの歌詞に対してバッハが作曲に先立って、その神学的正統性についていかに心を砕いて努力していたかを知りうる顕著な事例なのである。